疲労にまつわる12の真実
1.栄養ドリンクで
疲れはとれない
コンビニでも手に入る身近な存在、栄養ドリンク。実は、数ある商品の中で疲労回復効果が人を対象に実証されているものはひとつもなく、飲んで疲れがとれる可能性は極めて低いです。ラベルを見ると「タウリン○○○○mg配合」と謳っているものがありますが、そもそもタウリンが人間に対し疲労回復効果があるという科学的立証はなされていません。
栄養ドリンクを飲んで「すっきりして目が冴えた、エネルギーを感じた」と感じるのは、カフェインの覚醒作用や微量のアルコールの気分高揚作用によるものです。栄養ドリンクは一時的に疲れをごまかすものであり、一夜漬けなどに活用する分には利用価値がありますが、長期服用は健康を害する恐れもあり、疲れがどんどん蓄積する可能性もあることも知っておいて下さい。
2.うなぎを食べても
疲労は回復しない
焼き肉やうなぎなどの食べ物は、昔から「精がつく」とされ、特にうなぎは夏の疲れをとってくれる食材として親しまれています。しかし、うなぎを含む「スタミナ食」と呼ばれる食材で、現代において疲労回復効果が認められているものはほぼありません。
戦前など食料が不足した時代は、体のエネルギー不足による疲れが深刻な問題だったため、脂質の多い高エネルギーな食材は疲労回復に役立ちました。しかし現代では、このようなタイプの疲れ自体まず起こりません。むしろ胃に負担がかかり疲れてしまうこともあります。
ちなみに、うなぎに豊富に含まれているビタミンAやB1は昔の人には不足がちだったため、病気の予防になり精がつくとされるようになったのかもしれません。しかし現代社会では、ビタミンAもB1も国民の摂取充足率は100%を超えています。あえて摂取しても疲労を回復させる効果は期待できません。
3.疲れに最も効く
食材は鶏の胸肉
1万キロ以上を移動する渡り鳥はなぜ疲れずに長期間飛行できるのか。その抗疲労メカニズムの研究からわかったことがあります。渡り鳥の羽の付け根には「イミダペプチド」という成分が豊富にあり、実はこの成分こそが最強の「抗疲労成分」であることが明らかになったのです。
イミダペプチドは、鶏肉や牛肉、豚肉にも含まれていますが、日常的な食材の中では、鶏の胸肉にもっとも多く含まれています。その他にカツオやマグロの尾びれの部分にも多く含まれています。
4.カルシウムで
イライラはおさまらない
イライラは、自律神経が出す疲れのサインのひとつです。イラついている人に対し「カルシウム摂った方がいいよ」と言うのはもはや常套句になっていますね。
しかし、実際はカルシウムが不足してイライラするということは考えられません。人間の体の骨にはカルシウムがたくさん貯蔵され、もし脳内で不足した場合は骨から溶け出して必要量を維持するという仕組みが備わっています。その貯蔵分もなくなって神経や脳に影響が出るという危機的状況は、現在の日本で起きることはまずありません。また、カルシウム自体に自律神経を癒す効能もありません。
5.マイナスイオンでは
癒されない
まず、マイナスイオンという言葉は和製英語であり、世界では用いられていません。また、マイナスイオンの定義自体も正確に決まっておらず、空気中に帯電して漂っている微粒子の総称という訳し方くらいしかできません。つまり、癒し効果を実証する以前に、存在そのものがあいまいなのです。
ただし、自然豊かな環境に行くと癒されるということは、科学的に実証された真実で、これは自然界のカオス的なゆらぎのおかげです。
厚生労働省では、産学官連携で森林浴の効能を科学的に実証しようという試みを行っています。森林浴は確かに疲れを癒してくれます。その理由は、森林には「ゆらぎ」の環境があるからです。森の中にいると木漏れ日や風を感じ、鳥の鳴き声、小川のせせらぎも聞こえてきます。少し動けば、温度・湿度も微妙に変わります。このような自然の環境は全てゆらいでいます。
ヒトは本来、自然とともに暮らすものです。文明を築き、コンクリートに覆われた環境になったのは、数百万年続く人類史という枠で見ればごく最近の出来事です。ゆらぎの環境の中にいると、ヒトは居心地の良さを感じます。精神的にリラックスすることで副交感神経がよく働き、ストレス下で活発化する交感神経の働きは抑制されます。その結果としてストレスが解消され、疲れも癒すことができるのです。
6.熱いお風呂に入ると
疲れが倍増
熱い温泉で「いい湯だな」と思えば疲れも吹っ飛ぶような気がするかもしれませんが、実はこれは勘違いです。熱い湯に入ると脳に快感物質が分泌されるため、疲労感が薄れることはあるでしょうが、本当のところは、むしろ余計に疲れています。温泉に行くとなんだかよく眠れるのも、熱い湯に入ることで体が疲れているからです。
以前、NHKの『ためしてガッテン』という番組の企画でこんな実験を行いました。まず熱い湯に15分浸かってから一旦あがり、もう一度15分浸かります。そしてその後で、血液中に現れる疲労の目安である「疲労因子」を計ったところ、その割合が高くなっていました。これで、湯上りの体が疲れていることが実証されたのです。
疲労回復効果を期待するなら38度~40度のぬるめのお湯に15分、半身浴で浸かる入浴法がおすすめです。
7.デスクワークの疲れと
運動の疲れは同じ
疲れのメカニズムを簡単に述べると、「ある部位の細胞に負荷をかけた作業をすると、細胞が酸化され、錆びることによってその部位の機能が低下していく」ということになります。デスクワークでPCとにらめっこしながら頭を使った作業をこなすと、頭が疲れます。これは脳細胞や自律神経の細胞などが錆びて傷ついたせいです。
疲れが起きるメカニズムというのは、実は体中のどこでも一緒です。疲労とは、運動疲労であれ精神作業疲労であれ、自律神経の負荷が強くなり自律神経細胞で活性酸素が大量発生することで自律神経細胞が錆びてしまい、本来の働きができなくなった状態、とまとめることができます。
8.乳酸は筋肉疲労の
原因ではない
しかし、実は乳酸が増えるから体が疲れることはありません。むしろ、乳酸には筋肉の細胞炎症を抑え修復を促す働きがあり、最近の研究では脳においても疲労回復のエネルギーとして使われていることが明らかになっています。
9.サングラスで全身の
疲れを軽減できる
紫外線は、ヒトにおいてDNA自体を損傷させる大敵です。紫外線を受けると目の奥の角膜で活性酸素が大量に発生し炎症反応が起きます。その炎症が、全身に「大敵の紫外線が来たぞ」と言う信号を送ることになります。その結果、全身で大敵である紫外線に対して戦闘態勢をとることから自律神経が亢進し、疲れを助長してしまいます。
屋外での運動や外出の際は、サングラスをかけると疲れの度合いが違います。特に紫外線の強い5~6月の時期に活用してみて下さい。
10.目の疲労感は、
脳の疲れが引き起こす
ところが、ヒトはパソコンなどで仕事をするようになり、脳は緊張して交感神経優位に活動状態を保たなければいけないのに、目に対しては無理やり副交感神経に刺激を出して、近くを見ることを求められるようになりました。この矛盾が脳を混乱させます。つまり疲れているのは、脳が緊張状態にも関わらず、無理に近くを見るように指示を出す自律神経中枢なのです。
11.疲れが老化を促進する
疲れと老化のメカニズムは同じです。活性酸素が一時的に細胞を傷つけるのが「疲労」、そして細胞の傷が癒えないまま傷跡になるのが「老化」です。たとえば、体の疲れが抜けない状態で何日も過ごすとします。すると細胞が修復しきれていないところにさらに負荷がかかり、傷跡も残りやすくなります。つまり疲れを放っておくと、老化のペースを促進してしまうのです。
ポジティブに考えるなら、その日の疲れをその日のうちにケアできれば、こまめに細胞が修復され、若さを保つアンチエイジングにつながります。
12.過労死するのは人間だけ
そのためヒトの場合、実際の体の疲れと脳が感じる「疲労感」が一致しないことがよくあります。疲れがたまってくると、体から脳に「休め」という警告が発せられ、それを受けて、眠る、休憩する、という疲労回復行動をとります。ところが脳が興奮状態だったり幸福感のある状態だったりすると、前頭葉の力で警告は無視されることがあり、疲れを疲労感として感じなくなってしまいます。
疲れがたまっているのに、それを認識できない「疲労感なき疲労」……この状況が長く続くと、その先に過労死や突然死が待っています。たとえば、残業明けの土曜日、早朝ゴルフでよくみられる心筋梗塞や脳卒中は、疲労が蓄積しているのにゴルフの楽しさや高揚感に脳がマスクされた、「疲労感なき疲労」によって起こります。
こうした事例はとても多く、責任感があり、やりがいや使命感で働くような人ほど、疲労感なき疲労の状態が続きやすい傾向にあります。疲れをあなどってはいけません。